水のボトルを求めて暗がりの中でごそごそと鞄の中を探っていると、背後でパッと小さな灯りが点いた。 「どうかしたのか、獄寺」 てっきりまだ寝ていると思っていた山本から声をかけられ、ほんの少しドキリとする。 「あ、わりぃ。起こしたか?」 「いや……起きてた」 「え?」 ようやく闇に慣れかけていた目を瞬かせて、眩しい光を放っているスタンドのほうを振り向くと、いつの間にか起き上がって、ベッドの端に腰掛けている山本の闇より濃い眼差しにぶつかった。 「……山本? おまえ、どうし……」 どうしたんだと質問を全部口にする前に肘のあたりをつかまれて、いきなりぐっと引き寄せられる。 「う、わっ」 バランスを崩して倒れかかった獄寺の身体を受け止めたのは、山本の胸だった。 「どうしてって、ひでぇなぁ。真上で獄寺が寝てんのに、おとなしく眠っていられるわけがねーじゃん」 「なっ……」 「寝返りを打ったりしておまえが身体動かすたびに、ベッドの床板が少し軋むんだ。そうすっと、ああ、ちょっと手を伸ばせば届くところに獄寺がいるんだなぁって、つい意識しちまって」 「ばっ……バカか、てめぇは! そのくらいでいちいち意識すんなっ! つーか寝ろよ。俺がかえって邪魔してるみてぇじゃねーか」 心配で同じ部屋になったのに。 悔しすぎて必死にそれを隠しているんだとしたら、みんなが休んでいる時にいきなり時雨金時で素振りでもするかもしれない。あるいは神経が昂って眠れず、回復が遅れてしまうかもしれない。 ぐるぐるといろんなことを考えた末に部屋まで押しかけたというのに、どうやら逆効果だったようだ。 「だったら俺はもう―――」 出て行くと云い捨てて立ち上がるつもりだったのに、予期していたのか、その動きはあっさりと止められ、引き戻された。 抵抗する間もなく唇を塞がれる。 「……っ」 だが舌が侵入してくることはなく、軽く押しつけるように触れただけで、山本の唇はすぐに離れていった。 代わりに逃げ出さないよう腕の中に閉じ込められて、ギュッときつく抱きしめられる。 「俺は…………本当ならあの時、死んでた」 「や、山本?」 しっかりと背中に回された腕が身じろぎすらも阻んでしまう。 表情を見ることはできない。 ただ、耳に届いた声の硬さに、背筋が震えた。 「そんなのおまえだけじゃねーだろ。俺だって、あの風紀委員がいなけりゃ崩れてくる壁に押し潰されて終わってたかもしれねーんだし……」 必死に言葉を紡いでみたものの、だから気にするなとはさすがに云えず、途中で尻すぼみになっていく。 「そういうことじゃねぇんだ」 「けどっ……」 云い募ろうとする獄寺を遮って山本が囁いたのは、まったく別のことだった。 「なぁ、もっかいキスしていい?」 「…………」 触れ合っている箇所から布越しに伝わってくる体温と鼓動。 首筋にかかる吐息が熱い。 「……ダメか?」 「この体勢でいちいち訊くな、バカ」 少し甘えを含んでいるような声にほだされて了承すると、わずかに腕の力が緩み、山本が屈み込んできた。 「んっ…」 しっとりと覆い被さるように重なってきた唇は、一旦チュッと音を立てて離れた後、角度を変えてまた吸い付いてくる。 「あ……やま、も……っ」 今度はぬるりとした舌が歯列を割って滑り込んできた。 「んっ、んんっ」 口腔内でそれが別の生き物のようにいやらしく蠢いて、自分の舌に絡みついてくる。 「…ぁ、ふっ…ぅ」 いつの間にか獄寺の手は山本のスウェットを握りしめていた。鼓動が速まり、徐々に息が上がっていく。 もっと―――…… 甘い陶酔に浸って、ついそんなセリフを洩らしてしまいそうになる。だが、このまま流されてしまうわけにはいかない。 獄寺は力が抜けそうになっている腕で、必死に山本の肩を押し返した。 「おい山本、これ以上はだめだ。まだ安静にしてろって云われたばっかだろうが」 「平気だって」 「バカやろ。それで、もし具合悪くなってみろ。云い訳できねーぞ」 「……そうだよな。獄寺だってケガしてんだし…………けど」 ごめん、まだ離したくねぇ。 瞳をじっと覗き込まれて、真顔で訴えかけられてしまうと振り払えない。何のかんの云っても、獄寺はこの男の眼に弱いのだ。 「ったく、しょーがねぇ奴だな」 大きく嘆息すると、獄寺は床の上に座り込んで再び山本の胸にもたれかかった。 心音がまだ少し速い。 「単純野球バカのくせに、分かりにくくヘコんでんじゃねーよ」 「いや、まぁヘコんでるっつーか……」 「んだよ? 違うのか?」 何を云い淀むことがあるんだと眉を顰め、面を上げて問いかける。 至近距離で絡み合った視線の先に、強い光が宿っていた。 「あのさ、俺、絶対もっと強くなっから」 その一言だけですべて解った気がして、自然と獄寺の口角が上がっていく。 (やっぱよけいな慰めや励ましは要らねーか) 「……ま、当然だな」 にやりと笑ってそう返してやったら、山本もつられたように口許を綻ばせた。そのまま見えない何かに引き寄せられるように、互いに顔を寄せ合い、口づける。 「ん…っ」 二度、三度と繰り返して。 ぬめった舌はさっきよりも一段と淫靡な動きで絡まり合い、あっという間に二人を引き返せないところまで押し流してしまった。 ※ ※ ※ サイトUPされている14歳山獄SS「決戦前夜」と、おまけの「瓜ネタ短編2本」
そしてこの「二段ベッド」ネタを「未来編」として一冊にまとめました。 ちょっぴりシリアス風味もありますが基本的には「お風呂ネタ」と「二段ベッドネタ」の エロ2本立てです(笑) エッチ長いね、と友人に云われました(爆) そんな本ですが、よろしければご一読下さい! 2009.5.4 初出し A5 56P オフセット @500−/2009.4.25 内容紹介UP |