「黒雨 (KOKUU)」(十年後・山×獄本) <内容紹介>



 原作16巻直前の十年後同士の山本×獄寺本です。
 本誌で読んだ十年後山本があまりにも格好よかったので、浮かれながら書いた
 大人カプネタ♪ その中身をチラリとお見せ致しますので、どうぞ! ↓ ↓ ↓


                    ※    ※    ※


 アジトを離れたあと、半ば無理やり獄寺を竹寿司まで引きずっていった山本は、そこで一緒に上質の握りを存分に平らげた。息子の帰国を喜んでくれた父親が、最上級のネタを惜しげもなく振る舞ってくれたのだ。
 本当なら今夜ぐらいは親子水入らずで過ごすべきなのだろう。昔なら山本も迷わずそうしていた。
 だがいまは優先すべきことが他にある。
「おい、行くぞ」
 山本は獄寺を促して帰路についた。
「えっらそーに。テメェのうちじゃなくて、俺んちだぞ」
 またしても機嫌を損ねてしまった獄寺の言葉どおり、目指しているのは彼の住まいであるマンションだ。
 ただし、その部屋の鍵は山本も持っている。
 仕事で長く日本を離れたときは、実家に顔を出すより先にそこへ戻っていくことも少なくなかった。
「なんせ今回は長旅だったからな。エネルギー切れなんだ」
 早く補充させろと含みを持たせた視線が、スーツの上から獄寺の身体のラインをなぞる。
「このっ……スケベ野郎!」
 頬を朱に染めて、ぷいっとそっぽを向いた彼の白いうなじが、襟足の長い髪の隙間からちらりと覗く。
 ムースなどでわざと毛先を跳ねさせたり、固めたりしているが、もともと猫っ毛でやわらかい髪質は、ある程度時間が経つとすぐにボリュームを失ってしまうらしい。その代わり洗いたての髪はいつもさらさらの絹のようで、とても触り心地がよかった。
 もちろん、その下に見えている白いうなじもだ。
(あー、早く触りてぇ……)
 艶やかな肌の手触りまでついでに思い出して、ニヤリと相好を崩しかけたとき。
 背後からふいに鋭い視線と殺気を感じて、山本はピタリと足を止めた。
「……おい、どうした?」
 尋ねた直後に、獄寺も敵の存在を察知したようだ。
 慌てて懐に手をやり、身構える。
 しかし山本はスッと片手を挙げて獄寺の動きを遮り、先程までと変わらぬのんびりとした口調で告げた。
「ちょっと用事が入っちまったみてぇだ。悪ぃが、先に戻っててくれ」
「バカッ、何云ってる……」
 腕の立つ刺客だったらどうするんだ、暢気にも程があるぞと焦る獄寺をまぁまぁと宥めて、背後の闇にちらりと視線を移す。
「気にすんな。俺の客だ」
「――――っ!」
 うっすらと浮かべた笑みに、隣にいた獄寺が息を呑んだ。さぞや獰猛な顔つきになっているのだろう。まるで血に餓えた獣のように。
 あるいは彼を黙らせたのは、天性の殺し屋とアルコバレーノに云わしめた剣士の白刃にも似た鋭い眼光のせいだろうか。
「……分かった」
 獄寺はそれ以上何も云わずにおとなしく引き下がり、自分のマンションへとひと足先に戻って行った。
 むろんその間も静かな殺気を全身に纏い、潜んでいる刺客たちを威嚇、牽制していた山本は、離れていく背中が暗がりの向こうに消えるのを見届けてから、ようやく刀の柄に手をかけた。
「さてと」
 実を云うと、日本に戻る前から身辺に張りついている影が気になっていたのだ。一度まいたはずなのだが、わざわざこの極東にまで足を運んでくれたからには、相手をしないわけにはいかないだろう。
「――――じゃあ、そろそろ始めようか? おあつらえ向きにいい月夜だ」
 闇を映す山本の双眸には、さらに剣呑な光が満ち、煌めいていた。


                    ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 厳重なセキュリティ・チェックを通り抜けて入ったマンションの室内は、なぜか灯りがどこにも点いていなかった。
 廊下はもちろん、リビングも……ベッドルームも真っ暗だ。
 だが寝室の奥まで覗くと、ダブルベッドの端にちょこんと腰かけている見慣れた後ろ姿に気がついた。
「どうしたんだ? 灯りもつけないで」
 扉を開け放ったまま軽くノックして声をかけても、獄寺は振り返りもしない。
「……べつに」
 手にはグラスがあるようで、それを呷っている。
 近頃の彼のお気に入りはジン・ライムだ。
 窓から差し込んでいる仄かな月明かりでも、髪がしっとりと落ち着いているのが分かった。そして、山本に向けられている背中がすでにパジャマを身につけているということも。
「もうシャワー浴びたのか」
「おまえが遅いからだ」
 即答だった。
 怒っているような声で告げられた一言に、思わずニヤリと口の端を緩ませる。そうして山本は頑ななまでに面を上げようとしない獄寺の隣に腰を下ろすと、両手でその身体を引き寄せた。
「悪い。待たせたな」
 低い声で囁きながら、腕の中に捕らえた肢体をきつく抱きしめ、唇を重ねる。
「んっ……」
 与えたのは上品で丁寧なベーゼではない。強引に歯列を割り開き、唾液を絡ませ、口腔内を貪るような深く激しい口づけだった。
「……ふっ、ぅ」
 絡まる舌が逃げようとするのを追いかけ、吐息ごと奪う。
「ん……んっ、んんっ!」
 苦しいと肩を叩かれ、ようやく唇を離すと、呼気を乱した獄寺のうすい色の瞳にはうっすらと涙の膜がかかり、潤んでいた。
「……血の匂いがする」
「だろうな」
 まだ少し苦しそうに、だがそれとは別のことで顔を顰めている恋人の眉間や額にもキスを落とす。
「怪我は?」
「ねぇよ」
 こめかみにも、頬にも。やわらかい瞼や、しっとりと濡れた睫毛にも。
「あんまり心配させるな」
「おう、すまねぇ」
 それから頤、耳朶、その付け根。やがては細い首筋へと口づけは移動していく。
 時折きつく吸い上げ、紅い花を散らそうとすると、腕の中でむずがるように獄寺がそれを拒んだ。
「跡を残すな! 何度云ったら分かるんだ……おい、ちょっ…………先にシャワーを」
 浴びてこいと云いかけた言葉をキスで封じて、抱きかかえたまま広いベッドに仰向けに押し倒す。
「んっ……こら、待…ぁっ」
 やや乱暴に抱きこんだ身体を弄る動きに、獄寺は身を捩って抗おうとした。
「……や、やめっ……待てって!」
「待たない」
 ボタンを引きちぎり、布をはだけながら噛みつくようなキスを散らして、恋人の身体に無理やり官能の火を点していく。
「待ってたのはおまえの方だろ? いまさら逃げるなよ」
「だからってこんな…………あっ! やぁっ、よせ……ぁ、ああ……っ」
 形を変え始めた下肢の中止や胸の飾りを強く擦られ、口中で嬲られ、強引に追い上げられて、愛撫とはとても呼べないような激しさに、獄寺は勘弁してくれと何度もかぶりを振った。



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