「帰りつく場所 U」  <内容紹介>
〜 本文より一部抜粋 〜


「あのさ……獄寺のほうから電話くれんのはすっげー嬉しいんだけど、時差があること忘れてねぇ? こっち今、何時だと思ってんの」
 我ながら寝惚けた声だと思いながら、昨夜先輩と飲んでて遅かったのにと訴えてみる。だが、携帯から聞こえてきた恋人の返事は、少しもやさしくなかった。
『マイナス8時間だから、もう明け方だろ』
 口調もブリザードのように冷ややかだ。
 どうやら嵐の守護者殿はご機嫌斜めらしい。
(調査チームのせいだな)
 山本の予想どおり、獄寺が電話で捲くし立てたのは、会議の後ですぐさま人員を選出されて日本へと向かった連中のことだった。夜討ち朝駆けの基本に則ったのか、あるいは単に飛行機の到着時間が早朝だっただけなのかもしれないが、とにかく朝っぱらから家に踏み込まれて相当気分を害しているようだ。
『そもそもハナからこっちを疑ってかかってる居丈高な態度が気に入らねぇんだ。幹部でもねぇ雑魚どものくせに』
「まぁまぁ、そう怒るなって」
『これがムカつかずにいられるか! おかげで仕事にならねーし。あいつら家中引っ掻き回しやがるから、昼までマンションから出ることもできなかったんだぜ? やっと出てきたら、こっちはこっちで好き放題荒らされてるしよ。社外秘もクソもあったもんじゃねえ』
 立腹すると口が悪くなる恋人は、電話口の向こうで吐き捨てた。その背後からは雑然とした物音、多くの人間の話し声などが微かに聞こえてくる。
『とりあえずイカサマさせねぇように部下に見張らせてるけどな、あっちがその気なら何とでもなるぜ』
「まぁな。ツナもそれは分かってるさ」
 実際、押収物に偽の証拠を紛れ込ませることは可能だろう。だから獄寺がよけいにピリピリしているのだ。
(こりゃしばらくは機嫌直らねぇかもな)
 山本は苦笑しながら身を起こすと、仕方なくベッドから降りた。
 カーテンをわずかに捲って隙間から外を窺えば、街はまだ青い帳に閉ざされていて、空調の効いたホテルの部屋にいても視覚から夜明け前の冷気を感じ取ることができる。
 おかげで少し眠気が飛んだ。
「それよりフゥ太を襲ってきた連中のほうはどうだ? 大丈夫か?」
『……ああ。今、調べさせてる。じきに割り出せるだろ』
 話題が切り替わったことで、獄寺の怒りのテンションもやや落ち着いたようだ。
 フゥ太が大学で襲われた件は、山本たちも昨日のうちに伝え聞いている。相手は黒社会の一味のようだが、会議の直後という絶妙なタイミングに誰もが眉を顰めた。最高幹部会の招集日時が同盟ファミリー以外の連中に分かるはずがないのだから。
『まぁ、あいつのことは俺に任せろ。どうせそっちはもうしばらく足止めだろ?』
「みてぇだな」
『気をつけろよ。フゥ太が心配してる』
「フゥ太が、ね。……おまえは?」
『もちろんしてるさ、十代目が一緒に行かれているんだから。きっちりお守りしろよ』
「ハイハイ、分かってますよ。我らがボスは健在だぜ」
 今のところ荒っぽい展開になりそうなのは日本サイドだけだが、どうもフゥ太の占いによるとそうとばかりも云えないらしい。契約に引っかかる部分があってハッキリと明言しなかったらしいが、イタリアでも山本たちの滞在中に一波瀾あるかもしれないと獄寺が連絡してきたのだ。
(ま……充分可能性はあるよな)
 キナ臭い匂いはプンプンしている。
 昨夜も笹川と飲んでいる時に妙な視線を感じたので、帰る途中でストーカーもどきを軽く締め上げてやろうとしたら、その監視役はあっさり口を封じられてしまった。どこの組織の者か調べさせてはいるが、末端の構成員だろうから割り出しに時間がかかるかもしれない。
 いずれにせよ暗雲は広がりつつあるようだ。
 早晩、敵は実際に動き出すだろう。日本側が先か、こちらが先か…………しかし実質一人で日本支部とフゥ太、沢田の家族を守ろうとしている獄寺に新たな不安要素まで与えることはない。
「相変わらずツレないのな。夜中に電話してくるなんて、寂しくてテレフォンセックスでも強請るつもりなのかと、ちょっと期待したのに」
 気取られないように軽く茶化してみたら、途端に電話の向こうの声がひっくり返った。
『なっ…………ちょ、てめっ……バカか! 夜中じゃなくて明け方だろ。しかもこっちは昼間だ! っていうか、そういうくだらねぇ冗談云ってる場合じゃ……』
 いつもなら軽く聞き流されるところだが、この電話は間違いなく盗聴されているだろうから、獄寺が焦りまくるのも無理はないかもしれない。
(こーゆーとこが、いつまで経っても可愛いんだよなぁ)
「寝起きで、その気になっちまった俺の息子をどうしてくれんの?」
『知るか、バカッ!』
 ブチッと音を立てて、通話が途切れる。
「あ、切れた」
 くくくっと喉を震わせて笑っていると、すぐにまた呼び出し音が鳴った。液晶画面を確かめるまでもない。もちろん山本はすぐに出て謝った。
「悪い。ちょっと調子に乗った」
『……ホントにな。おまえの冗談は置いといて、十代目の護衛を頼むぜ』
「りょーかい」
『ついでに云っとくけど、おまえも気をつけろよ。油断なんかするんじゃねーぞ』
「おう」
 答えながら頬が緩んでくる。
「大丈夫だって。ちゃんと帰るから待っててくれ」
 必ず、おまえのもとに帰るから。
 今度は邪魔者に聞かれないよう、大事なところだけ抜かして伝える。
『……ったりめーだ』
 半分イタリアの血が混じっているくせに、なぜか純日本人よりも日本人気質なところがある獄寺は、今回のように盗聴などされていなくとも電話口で愛してるなんてセリフを云ってはくれないし、気安く云わせてもくれない。十年という歳月を経てもなお。
 言葉にするのは―――――帰ってこい、ただそれだけ。
「ま、充分伝わってっけどな」
 照れた時の表情を思い浮かべてついにんまりしながら、山本は通話の切れた携帯のフラップを閉じた。それをベッドの上に放り投げてバスルームへと向かう。
「さてと、目が覚めちまったから仕事すっかな」
 昨夜、飲んでいる最中にかかってきた電話はスクアーロからだった。
 同盟ファミリーに関することで、ヴァリアーだけが握っている裏情報がないか尋ねてみたのだ。彼が教えてくれたことを、これから調べてみなくてはならない。
 姿の見えない敵が次の手を打ってくる前に。



※      ※      ※


沢田と共にイタリアへ渡った山本は同盟内に不穏な空気を感じて、内密に調査を始める。
一方、獄寺はフゥ太を襲った敵と、最高幹部会から派遣された不正調査のメンバーたちに
神経を尖らせていた。イタリアとアメリカ、そして日本。裏社会の闇で繋がった一本の糸。
やがて、それが獄寺と山本を危機へと陥れる―――――

ボンゴレ雨の守護者、山本武。爆破事故により行方不明。
機内でその報告を受けた数時間後、獄寺の前にも敵が姿を現した。

※      ※      ※


REBORNでは初の前後編となった十年後捏造本、これにて無事完結です。
何とか幸せなラストまで漕ぎつけました! あ〜、よかった……(涙)
山獄が好きで、並盛の連中が好きで、そんな彼らが十年後どんなふうに
ボンゴレの一員として過ごしているかという妄想の一端が本作となりました。

獄寺たちの仕事に関することは、毎度ほぼ捏造で埋め尽くされていますが
今回特にそれが激しいです(汗) オリキャラの部下もかなり出てきます。すみません。
でも部下(それもデキる人材)がいない幹部なんて嫌なんだもんっ……!!
それからフゥ太のランキングに関しても、さすがにそのままだとシリアスにならないので
多少なりともリアリティのある解釈にさせて頂いております。その点も何卒ご理解下さい。

至らぬ点の多い拙作ですが、今回も愛情だけはたっぷりそそいでおります。
ぜひご一読下さいませ!何卒よろしくお願い致します。<(_ _)> 


2009.3.7 内容紹介UP


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