手作りのグッズを売っているところではアレが可愛い、コレが似合うと女たちがはしゃぎ、軽食を扱っている店で買ったたこ焼きをつまみながらのんびりと歩く。いつもはただ学生たちが授業の合間に行き来しているだけの廊下も、一般公開された日曜の今日だけはさまざまな人々が溢れていて、まさにお祭り状態だ。 口では気のないセリフを吐きながら、獄寺は内心驚いていた。こんなに賑やかなものだとは思っていなかったのだ。 「……おっ、このディスプレイ凝ってんな」 「うちの力作だよ。こいつに目を留めるとはセンスいいね」 「ふーん。扱ってるモンもまずまずじゃねーか」 「よかったら奥にあるのも覗いていってよ。掘り出し物、結構あるから」 古着や装飾品を並べているところでは店番の生徒とそんな会話をしつつ、ふと気づけば革のベルトや飾りのチェーンを手に取っていた。 普段街の中で高校生と交わす言葉といえば生意気だの、目つきが悪いだの、やかましいだのとケンカ絡みのセリフばかりなのだが、どうも今日は勝手が違うようだ。校内全体がどこもかしこも浮かれた印象だから、つい乗せられてしまっているのかもしれない。 「よかったな。何のかんの云って、結構楽しんでるみてーじゃん?」 しかし少し時間を食いすぎたのか、買い物を終えて教室を出ると、獄寺を待っていたのは山本一人だった。沢田たちはじっとしていられないチビたちを連れて、先に行ってしまったらしい。 (しまった! 十代目のお供で来たのに……) 「ばっ……そんなことねーよ!」 「そうか?」 ニヤニヤしながら買い物袋の中身を覗き込まれて、獄寺は手にしていた袋をサッと後ろに隠した。 「当たり前だろ、俺は仕方なくおまえらに付き合ってやってるんだ。…………けど、まぁ城にいた頃もイタリアの下町を転々としてた頃も、こういうのに縁がなかったからな。物めずらしいのは確かだけどよ」 云い訳がましいのは自分でも分かっている。だから、なおさら高飛車な態度を崩せない。 「うんうん、そうなのなー」 「笑うなよ!」 「笑ってねーよ?」 言葉とは裏腹にめいっぱいニコニコしている山本が、獄寺の肩に腕を回してきた。沢田に対してはよくやる仕草だが、獄寺は一度やられて思いきり腕をつねったことがあるので、抱き合う時以外こんなにぴたりと身体をくっつけることは滅多にない。そのせいかこんな場所で特別な意図などあるはずもないのに、山本の体温を感じた途端に心臓がドクンと大きく跳ねた。 「だったら他のところもたくさん見ようぜ。ほら、ツナたちが待ってるから急ぐぞ」 「ちょ……こらっ、分かったから離せ!」 そのまま強い力でぐいぐい引っ張られて焦る。 結局、沢田たちと合流する直前に山本のほうから離れていくまで、腕を振り解くことも、つねってやることもできなかった。 (く、くそっ!) やたらドキドキと心拍数が上がって頬が上気しているのは、無駄に力を入れたからだと自分に云い聞かせてみても、敗北感は拭えない。 「あ、獄寺くん。よかった追いついて。いい物あった?」 (うっ、十代目の純粋な眼差しが俺には眩しいぜ……) 「ま、まぁまぁっすかね!」 笑顔を引き攣らせながら答えた獄寺は、まだ隣でへらへらしている山本の尻を蹴飛ばすことで何とか溜飲を下げた。 次に全員で向かったのは沢田がご近所さんにチケットを買わされたという2年3組の教室だ。 「おーっ、ツナ! よく来たなぁ」 教室に入ると、いかにも体育会系な感じの男が駆け寄ってきた。受け付けは眼鏡をかけた委員長タイプの女子生徒だ。 「いらっしゃい。きみたちひょっとして並盛中の生徒?」 「はい」 「そっか。やっぱり中学生は可愛いわね〜。並盛高校学園祭へようこそ! クラスの出し物以外にもいくつか面白い企画があるから、ぜひ参加していってね。……特に背の低いキミ!」 女子生徒の手がガシッと沢田の肩をつかむ。 「ピッタリなのがあるんだけど、どう?」 「はっ? 俺ですか?」 「こら、てめぇ! 十代目に馴れ馴れしく触るんじゃねーよ」 いきなり失礼な言動をされて固まってしまった沢田に代わり、獄寺が眉を吊り上げた。だが相手は少しも怯んだようすがない。それどころか獄寺の顔をしげしげと覗き込んで、さらっと不穏な単語を口にする。 「てめぇじゃなくて三村よ。あぁ、キミもいいわね。一緒に出ない? 我が生徒会執行部主催による女装コンテスト」 「はぁっ!?」 沢田と獄寺の素っ頓狂な叫びが重なった。 「ふ……ふざけんなっ、てめぇ! 誰がそんな真似するかっ」 わなわなと憤りに震えながら、拳をかざす。年上とはいえ相手が女だから実際に殴る気はないが、おとなしく云いなりになるつもりも怒りを隠すつもりもない。 「そうですよ。そんなの冗談じゃない! 俺もごめんです」 「でもすごく似合いそうなのに〜」 さらに失礼なセリフを吐いて残念がる生徒会役員が、すぐ側で背中を向けてドリンクの準備をしていた生徒に話を振った。 「ねぇそう思わない、ビアンキ?」 「なっ……?」 一瞬、名前を聞き間違えたかと思ったのだが。 「そうね。隼人は母親似だから」 やがて聞き慣れた声が鼓膜に届き、ぞわりと全身が粟立った。 ゆっくりと振り向いた人物の顔は紛れもない肉親のもので。 (嘘、だろ―――――……) 「何で、姉貴が……っ」 そこで一旦、獄寺の記憶は途切れた。 ※ ※ ※
果たして獄寺隼人の運命や如何に? なーんて(笑) 最初は別のものを出す予定にしていたのですがオンリーイベントが「嶽園祭」なので、 どうしても学園祭話を書きたくなって急遽書いたのが、この↑お話。ごっくんはこの後 女装されられちゃったり、××な山本に拉致(ホントは救出だけど)されたりと非常に お約束どおりのネタ・展開で、分かりやす〜いお話になってます(笑) 前回のオフと お題が共にシリアスだったので、違うタイプのものを書きたくなったのが要因の一つかも。 とにかく時間はなかったけど楽しんで書きました!同時収録されているWEB再録作品も おバカ系で取り揃えた楽しい一冊になってますので、ぜひよろしくお願い致します!<(_ _)> 2008.5.31 内容紹介UP |