「俺は晩飯より先に獄寺を喰いたい」 「…………」 あけすけなセリフにたじろいでいると、その隙にぎゅっと抱きすくめられた。そのまま鼻先を首筋に擦りつけるようにして、甘えてくる仕草はいつもどおりと云えなくもないのだが。 「なぁ、明日休みになったんだろ。だったら、いつもみたいに飯食ってゆっくりした後でもいいじゃねーか。何をがっついてんだよ?」 「だから、さっき云ったろ。お仕置きだって」 「……っ!」 車に乗り込む時よりもさらに近い距離で、耳朶を舐めるように低く囁かれて、ぞくりと背筋が震えた。 「いつもどおりじゃお仕置きにならないしな」 「な……んで」 もともと獄寺は耳やうなじが弱い。 吐息が触れた箇所を甘噛みされたり、舌先を穴の中に差し入れられて内側を舐められただけで、背中を駆け上がる震えが大きくなっていく。 「……っおい、やめ……ぁ」 身動きしづらいようにわざと脚の間に膝を差し挟まれて、皮膚のやわらかい首筋を強く吸われた。 (く、くそ…っ) もし跡がついていたら一発殴ってやると心の中で叫びながらも、身体を弄る手から逃れることができない。まだ緩く触られているだけなのに、押しつけられている太腿のせいで下肢の中心にも微妙な刺激が加わっているからだろうか。早くも身体の奥で官能の火が点りつつあった。 触れているところから、山本の熱が伝わってくる。 その事実が鼓動を速め、じわりと獄寺を昂ぶらせていくのだ。 だが、たとえ身体が煽られていても、そう簡単に流されてしまうつもりはない。 「いったい何に腹を立ててんのか知らねーが…………気に食わないことがあるなら、ちゃんと言葉で云えよ。でなきゃ分からねぇ」 そもそもなぜ「お仕置き」などされなくてはならないのか。説明しろと訴えかけると、山本はわずかに眉を下げて苦笑した。 「なんにも怒ってねーよ。ちょーっと妬いてるだけで」 「妬いて……って?」 心当たりのない獄寺は、いったい誰に、と思わず首を傾げてしまう。 すると山本は、覚えてねぇのかと、また口の端を持ち上げた。 「だから、あん時、俺が云ったろ。獄寺のことすっごい目で見てる奴がいたって。あれ、やっぱ気のせいじゃなかった」 「それ、いつの話だよ?」 「さっき入れ替わった十年前。俺たち、修学旅行で博多の温泉宿に泊まっただろ」 「……って云われてもなぁ」 何しろさっきは突然のことだったし、相手と場所があまりにも激変していたので、足元の温とヴァリアーにばかり気を取られていたのだが、云われてみればどことなく見覚えがあったような気がする。 「ヴァリアーとのお湯かけ合戦の途中で未来に飛ばされてさ。おまえ十年後のツナにすげぇ謝ってたんだぜ。邪魔してすいませんって」 「あ……」 この時になって、獄寺もようやく思い出した。 (そういや、昔そんなことがあったな……) 十代目との旅行は大切な思い出だが、夜の間ずっと山本に好き放題されていたせいで、どちらかというと思い出リストからあえて消去していた記憶だったのだ。 翌朝、寝不足で目の下にクマを作ってどんよりしている沢田と顔を合わせたときの気まずい雰囲気は、できれば忘れてしまいたかったのに。 「おまえよく覚えてたな、そんな昔のこと」 「そりゃもちろん」 浴衣着た獄寺がすげぇ可愛くてエロくて最高だったから。 恥ずかしすぎるセリフを笑顔でさらっと云われて、心拍数が一気に跳ね上がる。 「ば……ば、ばかっ! なに云ってる!」 「ホントだって」 山本の舌が再び獄寺の耳朶を舐め上げた。 「う…っ」 割り開かれている脚の間に伸びた手が、きわどいラインをたどっている。ズボンの前もいつの間にかくつろげられてしまった。 「濡れたスーツを脱がすのも悪くねぇけど、また浴衣を脱がしてぇなー」 「…………脱がすことばっか考えてんじゃねーよ」 「だってしょーがねぇだろ。隼人がエロいんだし」 「俺のせいかよ?」 濡れたシャツが卑猥だと云いながら、胸の突起を擦るように動く指の方がよほど卑猥な気がする。こういった方面に関しては昔から自分はされるばかりで、どう考えても山本の独壇場ではないだろうか? なのに、 「まぁ、さっきのは確実におまえのせいだよな」 云い切られて眉を顰める。 「……?」 「あんなに大勢の連中をあっけなく陥落させるなんてな。さすがって云いたいとこだけど、ホント危なっかしくて目が離せないぜ」 ずいぶんな云われようだ。 獄寺自身には到底信じがたいのだが、どうやら山本はカルポファミリーの兵士たちが急におとなしくなったのは十年バズーカに驚いたからでも沢田にひれ伏したからでもなく、なぜか獄寺に邪な想いを抱いたからだと思い込んでいるらしい。 「自分じゃ分かんねーだろ? だから……お仕置きすんの」 「なんだよ、それは」 要するにフェロモンを垂れ流した罰だとでも云いたいのか。 (いや、そもそも俺はなんにも垂れ流してねーし) 「全部おまえの気のせいだと思うぞ? あいつら単にビビってただけだろ」 「とか云ってるから、俺の心配はいつまで経ってもなくならないのなー」 肩を落として嘆息した山本は、獄寺のシャツを両手でつかむと、せーのとばかりに全部のボタンを勢いよく引きちぎって飛ばした。 上着を脱がされていたので少しは乾いてきていたが、まだ湿っている布地が引き攣れて鈍い音を立てる。 「あっ、こら……」 何するんだとこちらが制止する前にくるりと身体を返され、今度は壁に頬や肩を押しつけられた。そうして山本に背中を向けているわずかの間に、獄寺は脱がされかけたシャツで後ろ手に縛られてしまったのである。 ※ ※ ※
夏コミに出したDVD「ボンゴレ式修学旅行、来る!」発売記念突発本のコピー誌は
最初それ一冊で終わる予定だったのですが、書いているうちに彼らと入れ替わった 24歳たちの話もどんどん妄想が広がってしまい、結局オンリーでの新刊と相成りました。 どちらもイベント売りのみのつもりでいたのですが、ありがたいことに通販希望のメール などを頂戴しましたので、少しだけ再版することにしました。こんなバカ話でもOKな方は この機会に通販をお申し込みください。(一定期間が過ぎましたら頒布終了とします) ※1とは単価が違っていますが、ページ数にあまり関係なく(再録を除く)オフは500円、 コピー誌は300円というスタンスできているので、それに戻したためです。 紛らわしくてすみません(汗)m(__)m 2010.9.19 初出し A5 36P コピー誌 @300−/2010.10.09 内容紹介UP |